田んぼの一年 U 
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苗を育てる   稲を育てる  稲の収穫

稲を育てる

 田植えから約一週間後、根が活着した頃、田んぼに米ぬかを散布する。米ぬかによって細菌が繁殖し、トロトロの泥ができ、それが芽を出してきた水草を覆い、光合成をできなくするのが目的である。また、稲の肥料にもなる。

 除草剤を使っている人たちは田植えがすむと、それほど田んぼに手を入れる必要はないが、除草剤を使わない無農薬・有機栽培はこれからが大変である。まず、有機肥料は肥料の効き目が遅い。そのために、苗の生長が化学肥料ほど早くない。苗がもたもたしているうちに、水草の方が伸びてしまうのである。早いとこ、稲が伸びて日陰を作ってくれると、水草の成長も遅くなるのだけど。

 水草の生命力はすごいものがある。取っても取っても出てくる。田んぼの仕事は体力勝負。ここの農家も皆農薬を使う。年配者が多く、体力的に無農薬は無理である。私もいつまで無農薬で通すことができるのか。

 きつい農作業にひととき、安らぎを与えてくれるのこのかかしである。
東京の方からかかしを作りに来てくれる、かかしボランティアの作である。

 実は、このかかしは、ここに住むおばあちゃんたちに絶大な人気があるのである。彼女たちがこの田んぼの前を通るとき、声をかけていくというのである。おはよう、元気かい、とか。まるで孫のようなものである。

 お年寄りの寂しさを、このかかしたちは癒やしていたのである。
 女の子は、さはらちゃん、寅さんの妹はさくら。
 男の子は、弟のくま君
 かかしは、山の神が里に下りてきて、かかしにのりうつり、田んぼを守ってくれる、というのがかかしの本来の意味だそうである。伊那地方では10月10日に、山の神に山にお帰りいただく儀式があるという。かかしの前にごちそうやお酒を供えて、田んぼを守ってくれた労をねぎらうのである。もちろん、その供え物は、最後は人間の口に入る。

 これは水草退治の機械である。八反取り、とか、ごろごろ、といわれているものである。へらのような刃がついた車が前後にあり、前の車で水草を掘り起こし、後ろの車でそれを土の中に埋める、という除草機である。水草を泥の中に埋めて、光合成を絶つというものである。
 ところが、すごい重労働。まわりのじいさま方から、よくやるねえ、と憐れみの声をかけられる。

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