苗を育てる 3月に田んぼの準備をし、稲を育て、刈り取って実りを味わい、来年に向けての後片付けをし、田んぼに諸仕事が終わるのは10月も末、半年以上も田んぼとの付き合いをしなければならない。 3月に入り、ウグイスがうるさく鳴き叫ぶ頃になると、いよいよ農作業が始まる。百姓にとって嬉しくも、重労働の作業が始まる。まず田んぼの整備である。田んぼの大敵は、水漏れである。中山間地は山の斜面を削って田んぼにしているので、山砂の田んぼが多い。山砂の上に泥を作り、水漏れを防いでいるが、なかなか難しい。その上、モグラがトンネルを掘り、水漏れを起こしてくれる。これが田んぼの整備の一番骨の折れる作業である。 水漏れを防ぐために、畦塗りや畦波と言われるプラスティックの連続した板を畦に張り付けていく。畦塗りはなかなか高度な経験が必要で、私の手に余る。それで、畦波を使用となるが、その効果は抜群である。ただ、二年に一度は交換しなければならない。 3月の末に、いよいよ種籾から稲の苗を育てる作業が始まる。この過程は、百種にとって、最も大切な時期である。育苗に失敗して自殺した人がいるぐらいでる。 まず、種籾を決められた濃度の塩水に入れ、浮いた籾は捨ててしまう。沈んだ重い籾を使うことによって、均一な苗が育つのである。底に沈んだ種籾を、10日間ほど水に浸ける。この水は毎日取り替え、新鮮な水とする。 10日間、水に浸け、水を十分吸った籾を30度の温水に12時間浸け(私はお風呂を使う)、発芽させる。 発芽した籾を苗床に蒔き、それを土で覆う。 それを前もって準備しておいた田んぼに置き、幌をかぶせて、いよいよ育苗である。 これは私の写真でも一枚だけ残っているものである。稲の苗をイノシシの害から守るために張りめぐらされた網である。これはこの年だけで 、次の年からはやらなくなったと思う いつだっかは覚えていないが、4月10日頃だと思う。苗床を設置し、さあこれから、というその日の夜に雪が降った。辺り一面、真っ白である。 これで苗作りを失敗したら、一年が悲惨になる。さすが青くなったが、稲はもっと強かった。 まあ、こういうこともある。これが自然である。 数日後、おそるおそるおおいの中を覗いてみる。育っている。稲の命を感じる瞬間である。 後はほっといても伸びてくれる。 15cmほどになったら、覆いの裾を開け閉めして徒長しないよう調整する。 田植え(私のところでは5月20日前後)の1週間前には覆いを取り払って、苗を外気に慣れさせる。 いよいよ田植えである。山間地の小さな田んぼなので、小型の田植え機で植える。2条植で条間は30cm、株間は15cm、4〜5本に設定する。 田植機を扱っている男性は、京都からのボランティアである。 田植機でも欠損株が結構出る。田んぼの4隅や泥が深いところでは田植機が沈んでしまい田植機では無理なので、そうというところは手で植える。これを補植と言うが、けっこうきつい労働である。 田植えが無事終わると、その晩はビールで乾杯だ! |