第五章 方向転換の指針と行動の概要

163−181


163 方向転換と行動方針
 現在私たちが陥っている自滅の悪循環を回避する助けとなりうる対話の、主な道筋を概観する。

T 国際社会における環境に関する対話

164 世界的な視野に立つ解決策
 地球は故郷であり、人類はともに暮らす家に住む一つの民である。
 世界的な視野に立つ解決策の提案がなされるよう、促されている。
(世界の)相互依存関係は、一つの計画を共有する一つの世界を考えるよう義務づける。

165 再生可能エネルギーヘの転換
 汚染性の高い化石燃料ー石炭、石油、ガスなどーの使用を前提としたテクノロジーは、(再生可能エネルギー源の利用に)遅滞なく着実に置き換えられる必要がある。

166 エコロジー運動の発展
 市民社会の多くの組織の取り組みのかいあって、エコロジー運動が世界中で大きな発展を遂げた。
 近年の世界環境サミットは、政治的な意志が不十分で、環境に関して真に有意義で有効な世界規模での合意に達することは出来なかった。

167 リオの地球サミット
1992年、地球サミット リオデジャネイロ
 地球全体を一つの生態系として大切にする国際協力
 汚染者の費用負担義務
 環境影響評価(環境アセスメント)の義務
 大気中の温室効果ガスの削減目標
 行動計画と生物多様性条約
 森林原則声明

 しかし、この協定には、監視や評価、不履行時の制裁の仕組みが欠如−不十分な実施

168 肯定的な経験
 有害廃棄物に関するバーゼル条約
 絶滅の恐れのある野生動物種の国際取引に関する条約
 オゾン層保護のためのウイーン条約
 モントリオール条約

169 ネガティブな成果
 生物多様性の保護
 砂漠化関連問題
 気候変動、温室効果ガス

 国益を優先する国々によって、有意義な進展は見られない。

170 不公平な汚染ガス排出量削減対策
 汚染ガス排出量削減に向けた諸対策は、環境コストの国際標準化を求めるが、それは高度に工業化された国並みの排出量削減を、余力のない国に重い義務として課すという危険を冒すことになる。

171 炭素排出権取引
 炭素排出権取引戦略は、世界全体の汚染ガス排出量削減の助けとはならず、(かえって)新たな投機となる可能性がある。

172 貧しい国にとっての最重要課題
 貧しい国にとっての最重要課題は、極度の貧困の撲滅と自国民の社会的発展の推進でなければならない。
 このような国は、より汚染性の低いエネルギー生産形態の開発しなければならないが、そのためには、地球汚染と言う大きな代価を払って大きな成長を遂げた国の援助を必要とする。
 これは、諸民族の連帯に根ざす第一に下すべき倫理的な決断である。

173 国際協定の必要性
 広域災害(汚染や破壊等)を回避するための相互同意に基づく、法的強制力のある国際協定が求められる。

174 海洋管理システム
 悪化しつつある海洋廃棄物問題と公海保護は、特別な課題を象徴している。
 必要なのは、「地球共有財(グローバル・コモンズ)」全領域にわたる管理システムに関する合意である。

175 真の世界規模の政治的権威の必要性
 汚染低減の問題と、貧しい国や地域の開発問題の双方を扱うためには、もっとしっかりと責任を果たす世界的な対応が必要とされる。
 
 
自然破壊と汚染、乱開発のしわ寄せは、とくに貧しい国に押し寄せている。たしかにこれらの問題解決への取り組みは国際的に広まっているとは言え、これらを規制するにはあまりにも脆弱である。
 自国の経済の発展を至上のものとして自国第一主義を掲げるアメリカのトランプ政権に見られるように、また、共産党独裁政権維持のために経済発展を第一とする中国のように、国際協力とその協定にはまだまだほど遠いものがある。
 教皇の叫びは何処まで届くのだろうか。

U 新たな国内政策と新たな地域政策のための対話

176 国内問題としての課題
 環境や経済開発に関連した課題は、国レベルや地方レベルにも及んでいる。

177 共通善における管理運営
 共通善に照らして、許容しうる管理運営のための規則を定める法律が、監視と調整のために必要である。

178 真の政治的手腕とは
 困難に際して、気高い原則を掲げ、長期的な共通善を思い描く時、真の政治的手腕が明らかになる。

179 市民による政治権力の制御
 地域の個人や集団は、実質的変化をもたらすことが出来る。
 市民による政治権力の制御がなければ、環境に加えられる損傷を制御することは出来ない。

180 地域レベルの政治活動
 地域レベルの政治活動を、消費の見直し、経済的な廃棄物処理とリサイクルの展開、特定種の保護、多角的農業と輪作の計画立案、等を目指すものにすることが出来る。

181 世論や市民団体からの圧力
 気候変動と環境保護に関する政策は、継続性が必要不可欠である。
 世論や市民団体からの圧力がなければ、対処すべき緊急の必要がある時はなおのこと、政府当局は介入することに及び腰である。
 制度を改革・調整し、最良の実践を推進し、不当な圧力や官僚的ななれ合いを克服出来る健全な政治が、せつに求められる。
 しかしながら、そこに高潔で寛容な道筋を、各社会に示すことの出来る優れた目標、価値観、あるいは真正で深みのあるヒューマニズムがなければならない。


 環境や経済開発に関する国際レベルや国レベルでの歩みは遅く、時には妨害的でさえある。そこで、市民や地域レベルでの人々の動きが重要になってくる。
 私たちが住んでいるこの家(地球)に対して、さらに注意を向けるとともに、国や地方自治体、地域の政治的・経済的動きにも注意を払う必要がある。
 つまるところ、私たち一人ひとりが声を上げなければならないのだろう。