第四章 総合的なエコロジー

147−162


V 日常生活のエコロジー

147 
  真正な発展は、生活の質の全人的改善をもたらす取り組みを含んでおり、人々の生活条件を考慮することなしには不可能である。
 そうした生活条件は、私たちの思考や感情や行動の在り方に影響を与える。

148 
 周囲の有害な影響を和らげ、混沌と不安の中でも自分の生活を送るすべを身に着けることで、環境上の制約に応じる人々や集団が示す創造性と寛大さは感嘆すべきものです。
 時に、数々の難儀にもかかわらず、貧しい人々が実践するヒューマン・エコロジーは賞賛すべきものです。

149 
 極度の貧困状況におかれた多くの人々は、帰属感と一体感の絆を作り出し強めていくことが出来、そうした絆が、過密状態をして、エゴの壁を取り壊し、自己本位のバリアを乗り越えさせる共同体体験へと転換させる。

150 
 生活空間と人間行動が関わりあっていることを踏まえると、建物や近隣地域、公共空間や都市を設計する人は、人々の思考過程や象徴言語や行動パターンの理解を助けてくれるさまざまの分野を援用すべきである。

151 
 わたしたちを包み込み、互いに結びつけてくれる都市の中にあって、帰属感や根付き感や「我が家」感を強めてくれる公共空間や歴史的建物、都市景観を守ることもまた必要である。
 住民達が、一地域に閉じ込められて、より広がりを持つ都市を他者と共有している空間だと思えずにいることなく、一体感を有していること、それが重要である。

152 
 家を持つことは、人としての尊厳や家族の成長に大いに関係しています。これは、ヒューマン・エコロジーにとって、主要な問題の一つである。
 他者とのつながりや相互の関係、他者を喜んで認めることに配慮した空間が豊富な都市は実に美しい。

153 
 都市における生活の質は、利用するものにとってしばしばひどい苦痛の種となる、交通システムと大いに関係している。

154 
 人間としての尊厳を尊重することと、都市生活における混沌とした現実とは、しばしばぶつかり合う。しかし、それを理由に、見捨てられ、無視されている地方住民の存在を見過ごしてはならない。

155 

 ヒューマン・エコロジーは、もう一つの深遠な現実をも含んでいる。それは、人間の自然本性に刻み込まれていて、より尊厳ある環境の創造のために欠かすことの出来ない道徳法と、人間の生とのかかわりである。
 私たちは、私たちの身体そのものによって、環境とまた他の生き物たちと、直接かかわって生きている。
 自分の身体を受け入れ、大切にし、その満ち満ちた豊かさを大切にすることを学ぶことは、真のヒューマン・エコロジーに不可欠の要素である。
 

W 共通善の原理

156 
 総合的エコロジーは、社会倫理を統一する中心原理である共通善の概念と不可分なものである。
 共通善とは「集団とここの成員とが、より豊かに、より容易に自己完成を達成出来るような社会生活の諸条件の総体」のことである。

157 
 全人的な発展に向けて、譲渡不可能な基本的諸権利を付与された人格としての人間を尊重することが、共通善の原理の前提である。
 共通善の要求は、社会的な平和、秩序がもたらす安定や安心であり、それらの達成は、正義の配分に特別の配慮が必要である。

158 
 グローバル社会の現状において、共通善の原理は論理的活不可避的に、連帯と最も貧しい兄弟姉妹のための優先的選択とを要求してくる。
 また、貧しい人々のはかりしれない尊厳の真価を、他の何ものにも先んじて認めるよう要求する。

X 世代間正義

159 
 共通善の概念は、将来世代をも広く視野に収めるものである。世代間の連帯から離れて、持続可能な発展を語ることは出来ない。
 この世界は、後続世代にも属するもの故に、世代間の連帯は、任意の選択ではなく、むしろ正義の根本問題である。

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 どのような世界を後世に残したいかと自問する時、私たちはまず、その世界がどちらに向かい、どのような意味を帯び、どんな価値があるものなのかを考える。
 この世界で私たちは何のために生きるのか、私たちはなぜここにいるのか、私たちの働きとあらゆる取り組みの目標はいかなるものか、私たちは地球から何を望まれているのか。

161 
 私たちは、将来世代に瓦礫と荒廃と汚物を残しつつある。消費と廃棄、そして、環境変化の進行速度が、地球の許容量を超えようとしており、現代のライフスタイルは持続不可能なもので、いまでさえ世界のあちこちで周期的に生じている破局を早めるばかりである。

162 
 これらを取り上げる際の困難さは、環境悪化にともなってきた倫理的・文化的退廃と大いに関係している。
 ポストモダンの世界にいる私たちは、奔放な個人主義のリスクを冒しており、多くの社会問題は、刹那的な満足感を追求する現今の自己中心的な文化と結ばれている。こうしたことは、家族と社会的絆の危機、他者を認めようとしないことの中にうかがえる。

 第4章は総合的なエコロジー(Integral Ecology)というタイトルであるが、その意味するところは、エコロジーはただ生態系や環境の問題であるばかりではなく、私たち人間の生活、政治、経済、文化など、あらゆるものと関わっている。ある意味で、あらゆるものがエコロジーによって統合されていく、といった方がよいだろう。つまり、エコロジーはすべてのものを一体のものとして取り組む必要があるのである。そういう意味から言うと、Integral Ecologyは、統合的なエコロジーと訳した方がよい。
 参考までに、
「未来のため、よりよい選択を行うための条件
 ・誰もが食料やエネルギー、水を利用出来ること。
 ・生物多様性が維持されていること。
 ・つながりと広がりを持った生態系が、一体性と回復力を確保していること。
 ・こうした状況を作り出そうとする、人間の意志の存在。」
           (WWF(世界自然保護基金)はレポート2016)