第三章 生態学的危機の人間的根源

124−136


V 近代の人間中心主義の危機と影響

雇用を守る必要性

124 労働の価値
 人間を排除しない統合的なエコロジーに迫るには、労働の価値を考慮する必要がある。
 労働者や職人は「造られたこの世界の調和を固く守る」

125 働くことの意味
 働くことについて正しく理解する必要がある。
キリスト教の霊的伝統は、被造界の畏敬に満ちた観想と、働くことの意味についての豊かで健全な理解を発展させてきた。

126 修道生活の伝統
 冥想することと働くことが作用し合う中で、人格的成長と聖化とが探求されるようになった。

127 労働は豊かな人格的成長の場
 私たちは、「境遇を改善し、道徳的成長を推し進め、霊的資質を発展させる能力」を有している。
 働くことは、豊かな人格的成長の場であるべきである。
 すべての人が安定した雇用を得られる、という目標が継続的に優先されるべきである。

128 人的損失は経済的損失

 私たちは創造の初めから、働くことへと招かれている。
雇用の削減は、「社会関係資本」の減少によって、経済をも損なってしまう。「社会関係資本」とは、信頼関係のネットワーク、信用性、規則に対する尊重である。
 「人的損失は常に経済的損失を伴い、経済的機能不全は、常に人的損失を伴う。

129 雇用を維持していくために
 雇用を提供し続けるために、多様な生産活動とビジネスにおける創造性を高める経済の促進が必要である。

バイオテクノロジーの新局面

130 動植物への人的介入
 人間が人間らしく生きていくために、必要な場合は動植物への人的介入は許されるが、それは「妥当な限度内に留まり、人間の生命を癒やしたり救ったりすることに役立つ限りにおいて」である。

131 人間の高貴な使命
 他の領域に与える影響や未来の世代の安全に十分な注意を払うことなしには、どんな生態系の領域にも介入すべきではない。
 科学的また科学技術的な進歩の恩恵は、神の創造のわざに責任を持って参与するという、人間の高貴な使命である。

132 正当な介入
 信仰が理性に払うべき敬意は、生物科学が、経済的利害に左右されない調査研究を通して、生物学的構造並びにその可能性や変異について教示出来る内容に、細心の注意を払うよう促す。

133 遺伝子組み換え作物
 遺伝子組み換え作物について、全般的な判断を下すのは困難である。問題となるリスクは、不適切な、あるいは行き過ぎたその適用によるもの。

134 遺伝子組み換え穀物
 (遺伝子組み換え穀物の導入によって)、生産性のある土地が少数の地主の手に集中し、その中で弱い立場の人々は時限労働者となり、多くの農業従事者は都会の貧困地区に移り住むことになった。
 こうした作物の拡大は、生態系の複雑なネットワークの破壊、多様な生産活動の減退、地域経済への打撃、種子の生産と栽培に必要とされる製品の寡占へと拡大していっている。

135 より広い情報公開が必要
 直接あるいは間接に影響を被る人々(農家、消費者、行政当局、科学者、種子生産者、燻蒸消毒された地所の近隣住民など)皆が、自分たちの問題と懸念とを周知させてくれ、現在と未来の共通善に資する決定を下すために、適切で信頼出来る情報を与えてくれる討議が必要である。

136 倫理から切り離されたテクノロジー
 倫理から切断されたテクノロジーは、制御不能に陥る危険性を有している。


 環境や自然破壊と汚染は、いのちあるものへの軽視や無視が原因であることが多い。それはまた、働くものへの軽視や無視にも繋がってくる。大量生産、大量消費の世界では、労働者もまた、人間性を無視した労働へと駆り立てられる。
 教皇はここで働く者を、労働と人間性の二面から考察する。

 いま生物科学は大きな問題に直面している。それは遺伝子組み換えという、自然の仕組みを人間の手で変えようという試みである。これには賛否両論があり、教会としても判断を下せないでいる。現実は、不幸な方へとどんどん進行中であるが、より広く、深い情報の公開とそれについての議論が起こることを教会は期待している。